【音楽を愛する青年の、夢と苦悩の物語】

心優しい青年、根岸崇一(松山ケンイチ)はオシャレでポップな音楽を夢見て上京するが、ふとしたことから悪魔系デスメタルバンドのボーカル、ヨハネ・クラウザーⅡ世としてデビューさせられてしまう。根岸の思いとは裏腹にバンドはどんどん有名になり、いつしかデスメタル界のカリスマ的存在に。
「僕がしたかったのはこんな音楽じゃない!」
夢と現実の狭間で揺れ動く青年の苦悩をユーモラスに描く。

原作は若杉公徳さんの同名ギャグ漫画で、売上部数300万部を超える。その内容からミュージシャンの間にマニアックなファンが多いことも有名だ。そんなファンの熱い期待を背負い、ついに実写化!　根岸崇一とクラウザーを一人二役する松山ケンイチの見事な演技分けはもちろんのこと、他のキャスティングもまさにはまり役。原作を読んでいた私は、漫画が動き出したような、へんな錯覚に陥ってしまった。その強烈なキャラクター達が動いていることに、笑いをこらえきれなかった。

音楽映画なのでライブシーンには期待していたが、これまた期待どおりで素晴らしい仕上がり。実際に多くの有名ミュージシャンが楽曲を提供し、共演をはたしている。KISSのメンバーで、世界的ロックスターのジーン・シモンズが出演していることも驚きである。
ライブシーンは、生ライブを聞いているかのような迫力でかっこいい。音楽ファンも、そうでない人も、一見の価値あり。

しかし、主人公の根岸が本当にやりたい音楽は、恐ろしい風貌のデスメタルではなく、カジヒデキやコーネリアスに代表されるオシャレなポップソング。根岸くんが腰をくねらせ、楽しそうに歌う姿はちょっと笑ってしまうが、楽曲はカジヒデキが提供し、素敵な曲に仕上がっている。地獄のデスメタルと甘いポップソング。その対照的な音楽の組み合わせが新鮮でおもしろい。

ただ、どんな種類の音楽にしろ、誰かに夢を与えられるのが音楽の力。心に響く音楽は人々をひきつけ、決して離さない。

「NO MUSIC NO DREAM!!」

根岸くんの叫ぶ言葉がいつまでも胸に残った。

text by...  岡原文恵

2008/08/13